薬剤師ドリブン

ただ怠惰に生きたい四国在住の薬剤師が、どうしても放っておけない日々の疑問や課題を探求する様子を描いたブログです。

【学会報告】第54回日本薬剤師会学術大会(2021-9-19)

f:id:onesky:20211102075728p:plain

第54回日本薬剤師会学術大会のプログラムの中で、スポーツファーマシスト関連について報告致します。「分科会」「口頭発表」「ポスター発表」ごとに気になった発表についてまとめてみました。

今回の学会は完全WEB方式になりました。現地で開催される学会独特の雰囲気は味わえなかったものの、「学び」という点ではWEB方式でも遜色ありませんでした。特にポスター発表は移動の手間がなく、あとからゆっくり見返すことができるのがWEB方式の強みと感じました。現地に訪れることができない薬剤師さんたちにもオンラインで参加するという可能性ができたと思います。同時間帯に興味のある分科会が重なってしまうこともあるので、他の学会のように分科会を期間限定でオンデマンド配信してくれるとよりオンライン開催のメリットが活かせると思います。

1.分科会

テーマは「薬剤師が支えるスポーツの価値」。スポーツ・コンプライアンス教育、スポーツDrのエピソード、専属管理栄養士の活動、元オリンピアン薬剤師としてできることなどが発表され、最後に意見交換が行われました。

1-1.スポーツが健康であるために-スポーツ・コンプライアンス教育とは-

スポーツの価値や信頼を高め、健全なスポーツの普及にはスポーツ・コンプライアンス教育が不可欠です。暴力・暴言、スポーツ障害、表面化しにくいハラスメントや商業主義・勝利至上主義による歪により行われるドーピングなどによりスポーツマンシップが損なわれる可能性があります。特にスポーツ外傷・障害・事故の予防はスポーツ医学の一分野と言ってもよいので、薬剤師も積極的な参入を希望しています。

1-2.スポーツファーマシストとの出会い

スポーツドクターが「博多祇園山笠」祭りをきっかけでスポーツファーマシストと出会い、スポーツドクターとしても重みが増したというエピソード。

1-3.アスリートの専属管理栄養士・トレーナーとしての活動

サッカーの香川真司選手やバドミントンの桃田賢斗選手の食事・栄養サポートを行っている管理栄養士兼パーソナルトレーナーの講演。とっかかりとしてトレーナーとして関わり、しだいに食事・栄養サポートにシフト。専門性だけ活かそうとしても選手には受け入れてもらえないことが多く、専門家である前に人としての関わり方が重要。選手のカテゴリーによってどのようなサポートが必要なのかを考える必要性があります。トップアスリートはチームが完全分業制でサポート。サプリメントはゲン担ぎとして摂取することもあり、コーチを信頼している傾向にあります。学生アスリートには正しい情報提供を行い、正しい選択ができるようになる必要性があります。

1-4.アスリートが守るスポーツの価値

オリンピアン薬剤師がアスリートと薬剤師の両方の視点から薬やサプリメントの認識の違い、薬剤師としてできることを講演してくれました。薬はカラダの不調を元に戻すもので、日本体育協会の使用可能リストなどが配布されることから危険なものと認識。調べて分からないものは服用せず、辛い状態をガマンしていることがあります。サプリメントは自分のレベルを上げるものとして藁をもすがる想いで摂取することがあり、リスト類がないので比較的安全なものと認識。薬剤師としてできることは新型コロナワクチンの副反応や正しい情報への不安の除去です。

1-5.意見交換

スポーツファーマシスト(SP)や管理栄養士の活用、ベーシックレベルのアスリートサポート不足についての意見がでました。SPや管理栄養士は中学・高校の部活動や研修をきっかけに活用の幅を広げていくのがよい。またOTC啓発や最新情報の共有も必要。トップアスリートはチームが完全サポートするがベーシックレベルのアスリートのサポートは全然足りない状態です。

2.口頭発表

「女性アスリートサポートにおける多職種連携の重要性」と「コロナ禍で実現可能なYouTube配信による教育啓発活動」の発表が行われました。今回は完全WEB開催になったためWEBポスター形式変更になりました。

2-1.女性アスリートサポートにおける多職種連携の重要性-スポーツファーマシストの役割に着目して-

多職種が連携することでアンチ・ドーピング(AD)だけでなくアスリートの体調変化に合わせたより質の高い情報提供ができます。またSPが多職種の専門知識を吸収することができます。

【事例1】SPより低用量ピルを使用中アスリートの不正出血について多職種に意見を求め、産婦人科医が疾患の特徴を助言

【事例2】産婦人科医より胃全摘のアスリートの無月経再発の食事療法について意見を求め、薬剤師は薬で補給、栄養士からは食生活の見直しの意見がでた。

【事例3】化粧品のADに関する疑問にSPが生薬の有無、国内外での成分表示方法の違いなどを説明。

2-2.競技団体におけるアンチ・ドーピング活動-コロナ禍で実現可能な教育啓発活動-

Face to Faceと同様なメッセージがオンラインツールでも再現可能かを検証。日本ラグビーフットボール協会が開催してきた研修会を映像化し、YouTube配信を行い、確認テストをMicrosoft formを利用して実施。ADに関わる正誤問題は過去の回答傾向と変わらなかった。比較的若い層には、デジタル活用による情報提供でもFace to Faceと同様な効果が得られる可能性があります。

3.ポスター発表

「検査薬の禁止薬物の調査」「YouTubeオンデマンド配信による啓発効果」のポスター発表がWEB方式で開催されました。WEBポスター形式は移動するので楽ですね。学会終了後も7日間は閲覧可能だったのがうれしいところでした。

3-1.検査前に医師から指示を受けたアスリートから依頼され、アンチ・ドーピングに繋げた事例

調査対象薬は「ヨウ化ナトリウム」「テクネチウム」「ブドウ糖」。GlobalDROで競技会時、競技会外時ともに禁止されていないことを確認。静脈注射の可能性を考慮し、以下の2点を文書で回答。

・12時間あたり100mLを超える静脈注射は禁止されるが、入院設備を有する医療機関で正当な臨床検査なら除外される

・検査を含めた診察記録を残すように医師に伝えること

薬物の禁止だけでなく、その投与方法が禁止に当たる場合があることを理解してもらえた。薬物自体の禁止の回答だけでなく、一歩先を考えての注意喚起や有益な情報を伝えていくことが必要があります。

3-2.岡山県薬剤師会アンチ・ドーピング活動報告専属スポーツファーマシスト制度の有効性-その2-

YouTubeのオンデマンド配信の啓発効果を調査。新型コロナウイルスの感染拡大により、スポーツイベントが中止・減少している中でSPに何ができるかを考えた。専属SPが直接、助言・指導するのが難しいので、従来の対面式の講習ではなく、岡山県スポーツ協会のYouTubeチャンネルを視聴してもらった。再生回数は国体参加選手数を上回ったものの、実際に視聴したかどうかまでは不明でした。