第52回日本薬剤師会学術大会が令和元年10月13日から14日の2日間、山口県下関市で開催されました。東日本に甚大な被害をもたらした台風19号の接近で開催が危ぶまれていたものの、予定どおり開催されました。今回は個人的に特に気になった分科会3「どうすれば実践できる?腎機能を考慮した医薬品適正使用のエッセンス」について報告致します。
1.なぜこのセッションに興味をもったか?
今回の学会参加には「高齢者施設における医薬品適正使用の処方提案の実践にはどのような手段が有効か?」という個人的なテーマを持って臨みました。というのは、今まで小児患者主体の業務だったのが、4月から高齢者施設での業務が加わったからです。何度か施設に訪問していると看護師さんや介護職員さんから薬についての相談をうけるようになりました。何例か処方提案をしているうちに「高齢者の医薬品適正使用に関する問題解決のために他の薬局や病院ではどのような取り組みをしているのか?」という疑問がでてきたという次第です。
2.何を学んだか?
腎機能を考慮した医薬品適正使用の本質をヒトコトでいえば、「薬剤師の得意分野、特殊な能力でなく基本的な業務」ということです。小児用量の処方監査は当たり前に行いますよね?それと同様に腎機能を考慮した処方監査も特殊な能力ではなく基本的な業務なのです。小児患者主体の業務をしていたことからこの言葉は腑に落ちました。
なぜ今腎機能なのか?-その重要性と注意点を再考する
高齢者の慢性腎臓病(CKD)患者の割合は3人に1人といわれ、まさに「高齢者を見たら腎機能低下を疑え」といっても過言ではありません。NDB(レセプトデータベース)によると地域の薬局で交付される7-8割は腎排泄型の医薬品です。腎機能を考慮した医薬品適正使用は薬局薬剤師にとっても、決して他人事ではありません。腎機能を考慮した処方監査は小児用量の処方監査とよく似ており、薬剤師にとっては得意分野で比較的取り組みやすい業務です。腎排泄型の用量設定に関する情報は数多く処方提案も比較的容易ですが、落とし穴もあります。添付文書はあくまで目安であり、筋肉量によって推算値は見かけより良くでてしまいます。夏場の脱水など環境要因に影響することもあるので画一的にならずに個別最適化することが重要です。
福井県薬剤師会による腎排泄型薬剤処方監査システムを活用した医薬品適正使用とその成果
福井県では早くから臨床検査値入の処方せんが発行されていたものの、今ひとつ活用されていない状況でした。薬局では腎排泄型薬剤適正使用に関する知識不足と待ち時間が増えてしまうという問題をかかえていました。これらの問題点を解決するために福井県薬剤師会は処方監査システム「compRete®」を導入。このシステムは腎機能を確認すべき薬剤を知らせる”注意喚起機能”と推奨投与量を表示する”投与量提案機能”を有しています。その結果、薬局薬剤師の腎機能に対する意識変容と理解につながりトレーシングレポートも5倍に増加(疑義照会は横ばい)。薬剤師会バックアップし、医師会・病院薬剤部と意見交換を行い、実践しやすい環境を構築したことも処方変更の増加につながった要因といえます。
薬局における腎機能を考慮した医薬品適正使用の普及を目指して-鹿児島県薬剤師会の事業成果と子音後の課題-
鹿児島県の患者のための薬局ビジョン推進事業の一環で「CKD患者への腎排泄型薬剤の投与量チェックによる薬薬連携の推進事業」を鹿児島県薬剤師会が委託。薬局薬剤師を対象とした基礎的研修会を開催。研修会は3時間ほどで、参加型のグループワークを行いました。その後、プレアボイド事例収集を実施しています。
腎機能低下患者においてトレーシングレポートを活用するポイント-病院薬剤師の立場から-
トレーシングレポートは共通のフォーマットにすると使いやすく具体的に介入してほしいことがわかりやすくなります。急性腎障害(AKI)を予防するためには変化する腎機能や個別eGFRの把握が重要ですが、医師は細かい薬のことまでは把握していません。薬剤師がトレーシングレポートを活用することにより安心感と信頼感を得ることができます。
薬局からの発信するCKDシールを活用した医薬品適正使用の取り組み
CKD患者への医薬品適正使用と他の薬局との情報共有を目的として、CKDシールの活用があります。手順としてはまず、患者からの情報提供をうけて検査値を確認し、CKDの定義であるeGFR60ml/min/1.73㎡未満の患者さんのおくすり手帳の表紙にCKDシールを貼付。さらに血清Cr値及びeGFRをお薬手帳に記載し情報共有を実施。薬局内の環境整備としては、調剤棚に注意喚起の目印をつけ、変化する腎機能に対応するため薬歴には経時的に記録をします。
3.今後にどう活かすか?
今回の分科会で学んだことをどのように自局で実践するかについてまとめます。
「高齢者を見たら腎機能低下を疑え」という観点から高齢者施設患者の腎機能リストを作成し、経時的に更新していきます。また薬歴の表紙にCKDステージを記載し、変化する腎機能も記録していきます。
薬局内の環境整備としては、日本腎臓病薬物療法学会の「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」などを参考に調剤棚に目印をつけ、薬歴のシステムにも腎機能低下に注意が必要な薬剤が注意喚起できるようにシステムを調整します。
医師への情報提供はトレーシングレポートを積極的に活用していきます。