薬剤師ドリブン

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アフターコロナに向けてアンチ・ドーピングについての振り返り

徳島県薬剤師会の会報誌にアンチ・ドーピングについての記事を寄稿させていただきました。今年は資格の更新年なので自分自身の知識の振り返りの内容となっています。

はじめに

新型コロナウイルスの感染リスクに向き合いながら現場に立ち続けている皆様に御自愛申し上げます。新型コロナウイルスの影響により東京2020オリンピックが延期、プロスポーツ開幕は延期、高校総体も中止となり、大規模なスポーツイベントは全て中止の状態です。2021年に大阪で開催予定のワールドマスターズゲームについてはまだ告知はないものの何らかの影響はあると予想いたします。

薬剤師の研修会も中止で、不要不急の外出が自粛されている状況ですが、スポーツファーマシストもそうでない薬剤師も、ドーピングについて再認識する良い機会なのかもしれません。今回はドーピングの基本的な知識や相談を受けたときの対応など大まかな概要を書かせて頂きました。長文ご容赦ください。アフターコロナ、New Normalに向けてお役に立てれば幸いです。

ドーピングの基礎知識

そもそもドーピングとは?
ドーピングとは競技能力を高めるために禁止されている薬物(物質)や方法を使用したり、それらの使用を隠蔽する行為のことです。ドーピング=薬物というイメージはありますが、血液成分を操作したり、検査を拒否したり、他の選手を陥れる行為もドーピングとみなされます。

ドーピング違反のパターン
大きく分けて「意図的」と「うっかりドーピング」があります。違反と知りつつ禁止薬物を使用したり、ライバルを陥れるという「意図的」なものと、「意図的」ではないものの違反と知らずに禁止薬物を使用してしまう「うっかりドーピング」があります。「意図的」か「うっかり」は関係ありません。どちらもアンチ・ドーピング規則違反として制裁が下ります。ちょっとした不注意で選手としての成長期や絶頂期に試合に出場することができなくなってしまいます。

どんな薬物(物質)がドーピングになるのか?

禁止表国際基準
スポーツにおいて、禁止される物質と方法が記載された一覧表が禁止表国際基準です。つまりこの一覧表に記載されている物質・方法がドーピングになるわけですが、そう単純ではありません。全て記載されているわけではないのです(後述します)。

禁止物質・方法は大きく3つに分類されます(図1)。「常に禁止されるもの」、「競技会(時)に禁止されるもの」、「特定の競技で禁止されるもの」です。少なくとも1年に1回更新されることになっており(毎年1月1日)、更新のたびにスポーツファーマシストも研修を行います。

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常に禁止
常に禁止されるので、競技会以外のときも禁止されます。

競技会(時)に禁止
別段の定めがない限り、競技者が参加する予定の12時間前に開始されてドーピング検査のための検体採取終了までの期間は禁止となります。

特定の競技において禁止
アーチェリーや射撃・ゴルフなど1点集中が必要な競技や恐怖心を生じる競技において緊張を和らげたり、振戦をおさえる物質は禁止となります。

2020禁止表国際基準

Open List/Closed Listとは?
禁止される物質・方法が特定して掲載されているものが、Closed List。
「類似の化学構造や生物学的効果を有するもの」などの記載があり、その代表例が掲載されているものをOpen Listといいます。つまり禁止表に明記されていなくても類似の化学構造があればドーピングとなります。この部分が使用可能か否かの判断が難しいところなのですが、薬剤師のスキルがもっとも必要とされるところでもあると考えます。

監視プログラム
禁止表には掲載されていませんが今後、禁止物質に掲載される可能性がある物質のこと。「カフェイン」「ニコチン」「トラマドール」「コデイン」などが該当します。

漢方・生薬はドーピングになるか?
全ての漢方薬・生薬はドーピング違反になる可能性があるので中止します。漢方を構成する生薬には、たくさんの成分が含まれており、1つ1つの成分が禁止表にあたるかどうか特定するのが困難だからです。明らかに禁止物質のものとして麻黄、ホミカ、丁子、附子、細辛、南天実、海狗腎、麝香、鹿茸などがあります。

健康食品・サプリメントは?
世界アンチ・ドーピング機構(WADA)は、スポーツでのサプリメントの使用は推奨されていません。製造基準や製品管理の規制が緩いため禁止物質が混入している危険性があります。

昨年、スポーツサプリメントガイドラインが作成されました。規定の審査を受け認証を取得しているサプリメントはドーピングリスクは低減されているといえるでしょう(例:インフォームド・チョイス)。しかしスポーツファーマシストとして積極的な推奨はできません。あくまで選択の指標としてのアドバイスに留めるべきでしょう。

OTCは?
医療用医薬品でもOTCでも禁止物質・方法に区別はありません。そのなかでOTC特有の注意点としては同一ブランドによる多数の商品名と配合薬が多いという2点です。同一ブランドでも異なる薬効群が多いため正確な情報のやりとりが必要です。

また配合薬が多いので思わぬ禁止物質が含まれていることもあります。特に生薬が配合されていないか確認することが必要です。
禁止物質ではなくても配合薬ゆえに不必要な成分が競技者のパフォーマンスを下げることがあります。できるだけ単剤の商品を選択することをおすすめします。

どうしても治療で禁止物質・方法が必要なとき

TUE(Therapeutic Use Exemptions:治療使用特例)
英語でも日本語でもよく分からない用語ですが要するに、治療で使用している禁止物質・方法を競技者が事前申請して承認を得られれば、ドーピングにはならないという手続きです。申請書は全て英語での記載で遅くても30日前までにTUE申請を行う必要があります。また医師にも記載してもらわなくてはいけません。

実際にアスリートから相談をうけたらどうする?

必ず記録に残る形式(メール・FAXなど)で行う
この原則は厳守してください。選手生命に係わる重要なことなので、誤解を与えてはいけないためです。また競技者が正しく薬品名を伝えるとは限りません。特にOTCは同じブランド名でも複数の商品があるので注意です(医療者でも薬品名の間違いによる医療事故も多いので...)。個人的にはJANコードなども確認しておくと確実だと思います。

迷ったら、安易な判断はしない
以下に使用可能薬を調べるツールを紹介しますが、必ずしも最新版とは限りません。禁止表国際基準のほとんどがOpen Listなので即答できない事例が多いです。判断に迷ったり不明なことがあれば即答をさけ、薬剤師会のホットラインまで確認してください。相談の流れは図2を参照してください。

【ツール1】薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブックで調べる
スポーツファーマシストのバイブルともいえる書籍です。薬局業務に最適化された内容と構成になっています。相談があった場合は「索引:使用可能薬リスト掲載医薬品の一覧表(50音順)」を見て、掲載があれば使用可能の旨を回答します。掲載がなければ「第2章:WADA禁止表掲載のドーピング禁止物質の作用と医薬品例」の禁止物質を確認。禁止表国際基準で調べてもよいです。よくわからなければGlobal DROで検索します。
※最新版はまだ未発刊です。2020年禁止表国際基準とのタイムラグがあるので注意してください。

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【ツール2】Global DROで検索
禁止表国際基準に則り、禁止物質・方法の情報を提供するWEBサイト。PC、スマートフォンの両方に対応しています。日本を含む7か国で販売されている商品名での検索が可能です。

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都道府県薬剤師会ホットラインで確認
「薬剤師会のためのアンチ・ドーピングガイドブック」や「Global DRO」で調べても分からなかったり、判断に迷ったときは都道府県薬剤師会ホットラインで確認してください。専用のフォームに記載して相談してください。

徳島県薬剤師会ドーピング防止ホットライン
URL:https://www.tokuyaku.or.jp/yakuji.html
FAX:088-625-5763 MAIL:jyoho@tokuyaku.or.jp

問い合わせ対応手順

おわりに

今回は概要のみでしたが、機会があれば禁止物質の薬理作用についても掘り下げてみたいと思います。

公認スポーツファーマシストになりませんか?
公認スポーツファーマシストとは、最新のアンチ・ドーピング規則に関する知識を有する薬剤師のことです。日本アンチ・ドーピング機構が定める所定の課程修了後に認定される資格制度です。残念ながら今年度の募集は終了しましたが、オリンピックも延期されたので来年の取得を目指すのも一考の価値があると思います。

出典
薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック2020 日本薬剤師会 日本スポーツ協会
●公認スポーツファーマシスト認定プログラム スポーツファーマシスト委員会
公認スポーツファーマシストホームページ
日本アンチ・ドーピング機構ホームページ