薬剤師ドリブン

ただ怠惰に生きたい四国在住の薬剤師が、どうしても放っておけない日々の疑問や課題を探求する様子を描いたブログです。

【薬局業務日誌】池上さんの影響がほとんどなくてホッとした

池上彰さんの番組で薬局のことが取り上げられ何らかの問い合わせを覚悟していましたが、杞憂に終わりました。

2021年11月6日放送の「池上彰のニュースそうだったのか」で薬局ごとの料金の違いや一般用医薬品OTC)について解説がありました。池上さんの解説は分かりやすく概ねそのとおりだけど「少し恣意的でない?」と感じました。不快感を抱いた薬剤師さんも多かったようです。

私自身、「それどうなん?」と思ったことがありました。まとめると以下の3つです。

1.ジェネリック(GE)を勧めると薬局の利益になる

これは事実です。ある一定のGEを調剤すると後発医薬品体制加算というのが算定できます。しかし、GEの推進は医療費を抑制する国の政策であり、法律にもとづく保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則でもGEを調剤するように務めなければならないと規定されています。

当該処方箋を発行した保険医等が後発医薬品への変更を認めているときは、患者に対して、後発医薬品に関する説明を適切に行わなければならない。この場合において、保険薬剤師は、後発医薬品を調剤するよう努めなければならない。
保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第八条の3

また一般名処方(成分名で処方)した医療機関にも利益になります。これらのことは解説せずに薬局の利益のことばかり指摘するのは少し悪意があると感じました。池上さんには背景の部分まで踏み込んでほしかった...

2.医療機関に近い大規模な薬局の方が価格が安い

これも事実です。受付処方枚数が多い薬局や大資本のチェーン薬局、医療機関の敷地にある敷地内薬局、近隣にある門前薬局の方が安くなります。一方、生活圏にあって、多数の医療機関から処方せんを受け付けている面薬局は高くなります。ただ面調剤は複数の医療機関から処方されている薬の一元管理がしやすいというメリットがあります(むろん敷地内薬局、門前薬局、大規模チェーン薬局ができないわけではない)。池上さんには少し高くても、薬を一元管理をするために生活圏で便利な薬局を使うメリットについての解説を期待していたので残念でした。面薬局の価格が高いのは国から設定されているので薬局ではどうしようもありません。こちらは制度設計の問題と考えています。

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3.一般用医薬品OTC)は副作用の心配があまりない

これは完全に間違いです。私はOTCの方が副作用や依存症に注意が必要と考えています。

厚生労働大臣は,一般用医薬品に使用される成分のうちの一部を「濫用等のおそれのある医薬品」として指定しています。具体的には,エフェドリンコデイン(鎮咳去痰薬に限る),ジヒドロコデイン(鎮咳去痰薬に限る),ブロムワレリル尿素,プソイドエフェドリン,メチルエフェドリン(鎮咳去痰薬のうち,内用液剤に限る)の6成分が指定されています。これらの成分を含む一般用医薬品については,販売に際して,他店舗での購入状況や購入理由の確認,販売時の数量の制限などが求められています。
医薬品・医療機器等安全性情報 No.365

これらは簡単にセルフ販売やインターネットでも購入できます。また医療用医薬品(処方せんが必要な医薬品)よりも副作用が多くて現在は医療機関では使わない成分もあります。日本のOTCの規制やリスク分類は緩めです。アメリカでは2歳未満に禁止されている成分や、6歳未満では薬剤師による販売に規制されている成分を配合した製品が気軽に購入できます。

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池上彰さんは入念な取材をする印象のある尊敬するジャーナリストでしたが、今回の番組の解説は取材をあまりしていないと感じました。なぜなら現在、業界で問題となっている医薬品供給不足のことやOTC依存症のことが一切でてこなかったからです。今回の番組はいったいどのような社会的な意義があって、誰が得するのだろうと考えてしまいました。

この1週間、影響力のある池上彰さんの番組の影響で、クレームとか問い合わせが多数あるかと思いましたが、「番組でやっていたね」程度のコメントが1件あっただけでした。弊薬局の患者さん達の民度の高さに感服しました。

以下の報道の問い合わせも心配していましたが、こちらも杞憂でした。医薬品供給不足のことをもっと報道してくれ〜


2021-11-13