上田薬剤師会は非薬剤師の研修をどのように実施しているのか?
非薬剤師でも可能な調剤業務を明示した通知(0402通知)が出され、手順書の作成と研修の実施が求められている。上田薬剤師会は「非薬剤師による準備行為検討委員会を発足させた。
準備行為を行う上で必要な知識を取得する座学(3時間)と基本的な技能を取得する実務実習(3時間)で構成。
座学では薬局に課せられた責任を認知してもらうため薬局に関する法律・倫理規範・制度や守秘義務などを学ぶ。
続いて業務範囲とともに、医療安全について学んでもらう。医療用医薬品の名称や効能効果、処方箋の読み方の基本、間違いやすい医薬品や調剤過誤とその防止対策など。
認定期間を1年とし、更新制にしている。
抗結核薬の処方箋
近年、結核治療で問題になっているのが、高齢者の増加と外国出生者患者の多剤耐性結核。
結核とは結核菌により発病する全身の感染症。進行すると咳や痰、微熱や倦怠感、食欲低下の症状が現れる。50年ほど前までは日本人の死亡原因の1位だったが、現在では治せる病。抗結核薬の多剤併用を6ヶ月以上継続すれば基本的に治る。一度感染すると極めて排除されにくい。感染率は20−50%。90%以上は発病しない。免疫で菌を封じ込めなくなると「発病」する。発病すると4割くらいが入院。
喀痰の塗抹検査で結核菌が検出されると周囲に感染させないように2ヶ月間の隔離入院になる。結核菌は空気感染(飛沫核感染)。半年〜1年かけてゆっくり感染する。外来治療は塗抹検査陰性の患者のため薬局で感染する可能性は低い。医療費は患者負担は5%
抗結核薬の処方箋は以下に大別
①結核
②潜在性結核感染(LTBI)
③肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)
結核は耐性菌対策のため、作用の異なる複数の抗結核薬を使用する多剤併用が基本。必須としてFirst-line drug(a)に分類されているリファンピシン(RFP)、イソニアジド(INH)、ピラジナミド(PZA)。First-line drug(a)と併用するFirst-line drug(b)はエタンブトール(EB)、ストレプトマイシン(SM)。副作用で使用できないときはレボフロキサシン(LVFX)が用いられる。治療開始から2ヶ月感の「初期強化期」とその後の4ヶ月間の「維持期」の2段階で治療する。初期強化期はRFP、INH)、PZAの3剤とEBの「4剤併用療法」で治療。維持期ではRFP、INHの2剤で治療。基礎疾患のある患者や高齢者は標準治療ができないことがある。PZAは80歳以上の高齢者には推奨されなず妊婦には使用しない。尿酸値を上昇させる。EBは視力障害、腎機能障害では血中半減期が極度に延長する。SMは聴力障害患者は避ける。INHは末梢神経障害や運動失調のリスクあり。予防としてビタミンB6を処方することが多い。
潜在性結核感染(LTBI)は結核に感染しているが、発病していない状態。LTBIの治療はINH単剤5mg/kg/日を6−9ヶ月投与が基本。発病抑制率は60−70%のため治療終了後2年間は経過観察が必要。INHは肝障害、発熱、末梢神経障害のリスクがあるため治療の対象になるのは有益性が副作用を上回る患者のみ。治療開始後はINHの副作用確認のため最初の数カ月は2週間に1回くらいの頻度で肝機能を確認する。薬局でも副作用、相互作用、継続の重要性を伝える。
肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)は非結核性抗酸菌(NTM)が肺に感染しておこる疾患。近年中高年女性などで羅患率が急増している。治療はRFP、EBに加えてクラリスロマイシン(CAM)を併用しているのが特徴。肺NTM症の9割が肺MAC症。MAC(Mycobacterium abium complex)は水系や土壌の常在菌で浴槽や畑、庭など身近な場所に生息する。弱毒菌で感染力は弱く、ヒト−ヒト感染はしない。肺MAC症は線維空洞(FC)型と結節・気管支拡張(NB)型の2つに大別。FC型はCOPDなど喫煙歴のある男性に多く進行は早い。NB型は閉経後、非喫煙者、やせ形の女性に多くゆっくり進行する。中高年女性に、2週間以上つづく咳症状があれば、鑑別すべき疾患の1つ。初期症状として咳・喀痰や血痰などもみられるが、無症状も3割いる。肺MAC症の標準治療はRFP・EB・CAMの3剤併用療法。NB型では治療が12ヶ月以上継続できれば80%以上が陰性化するので、いかに治療を継続できるかがポイント。
薬局で処方箋を受けたときのポイントとしてINH単剤ならLTBI、CAMがあれば肺NTM症、3−4種類以上の抗結核薬が併用されていたら初期強化期の結核で、INHとRFPの2剤なら結核の維持期と考えられる。RFPはCYP3A4誘導のため併用薬の血中濃度を下げるため併用禁忌が多い。特にワーファリンとの相互作用に注意。PT-INRの短縮がないようか確認する。PZA、INH、RFPは肝機能障害を起こしやすいので定期的な血液検査を行う。倦怠感や食欲低下の訴えがないか確認する。
便秘薬が出された患者のフォローアップ
便秘の状態を医学的定義や分類などに照らし合わせ、病状を把握するための情報を収集する。薬物療法の効果や影響因子のコントロールに落とし込んで服薬支援する。
降圧薬をCa拮抗薬からサイアザイドに切り替えた理由
Ca拮抗薬が、夜間頻尿に影響を及ぼしている可能性があるため。Na貯留傾向のある高齢者に対して利尿薬は、昼間にNaを十分排泄することで、夜間の多尿を回避することが期待される。高齢者の薬物療法はエビデンスに基づき処方設計した後、ナラティブを考慮し”最後の仕上げ”を行う。
妊婦が使える市販の消炎鎮痛外用薬は?
羊水過少症や胎児循環の動脈管の収縮・閉塞のリスクのため妊娠中期(妊娠14週)、妊娠後期(妊娠28週以降)は最小限の使用にとどめる。
消炎鎮痛外用薬は血中濃度が低いためリスクは少ないと考えられるが、漫然とした使用や大量使用は推奨されない。
妊娠後期のNSAIDs使用はプロスタグランジン(PG)濃度が低下し、胎児の動脈管が早期収縮、閉塞することがあるため内服薬や注射薬、坐薬は妊娠後期は禁忌となっている。
妊娠中期においても羊水過少症が起きたという報告もある。
まずは体を温めるホットパックの使用や入浴、マッサージやストレッチ、妊婦用の骨盤ベルトやクッションを使用するなど薬以外の症状緩和方法を提案する。
神秘湯とは?
神秘湯は気の流れの滞りにより生じる咳嗽や喘鳴(気滞喘咳証)を治療する処方。肺の気が気滞により阻害されて機能失調し、咳嗽や喘鳴が生じている。よくみられる気滞は精神情緒に関連したもので肝鬱気滞と呼ぶ。肝は五臓の1つで体の各種内蔵機能を調節し、精神情緒を安定させる。
OAB患者の抗コリン剤がソリフェナシン(ベシケア®)からプロピベリン(バップフォー®)に変更になった理由とは?
プロピベリンは抗コリン作用とは別の作用を合わせもつため。
膀胱平滑筋の収縮は①コリン作動性の収縮②アデノシン三リン酸(ATP)によるプリン作動性の収縮に分けられる。プロピベリンはプリン受容体サブユニットのP2X1受容体を介して膀胱の収縮を抑制する。
医師が処方を決めるまで−パーキンソン病−
パーキンソン病(PD)治療の基本は対症療法。個別最適化の医療の観点が必要。
早期PDはL-ドパ、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬のいずれかを選択する。
症状改善の必要性が高い患者にはL-ドパで治療を開始。L-ドパは脳内に達する前にドパミンに代謝されないように末梢性DDC阻害薬(DCI)との合剤であるL-ドパ・DCI配合薬(ネオドパストン®)が使われる。
当面の症状改善の必要性が低く、運動合併症リスクが高い65歳以下の患者にはドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬を選択する。
非麦角系ドパミンアゴニストは早期治療薬の第一選択薬。運動合併症の軽減や予防効果を持つ。他の薬剤に比べて眠気、幻覚、ふらつきが多く突発性睡眠の危険がある。自動車運転や高所作業はさせないようにする。
MAO-B阻害薬はドパミンを分解するMAO−Bの働きを阻害し脳内ドパミン濃度を上昇させる。単剤投与により早期PDの運動症状改善効果や運動合併症予防効果が報告されている。
進行期PDはL-ドパの薬効が不安定になり以下のような日内変動が生じる。
①L−ドパの持続時間が短縮する(wearing-off現象)
②薬物濃度とは無関係に症状が変動する(on-off現象)
③L-ドパの薬効発現の遅延(delayed on現象)や消失(no on現象)
④手足や体幹の不随意運動が起こる(L-ドパ誘発性ジスキネジア)など。
wearing-offの対策はドパミン受容体の持続的刺激を避ける。L−ドパ分割投与やMAO-B阻害薬、L−ドパの代謝を抑制するCOMT阻害薬などを併用する。ジスキネジアを伴う場合はL-ドパの減量が必要。薬剤吸収が関与するdelayed on現象やno on現象に対しては便秘の治療や消化管機能改善薬を併用。精神症状が出現した場合抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系薬、抗ヒスタミン薬、H2受容体拮抗薬など認知機能や精神症状に影響を与える薬を薬剤調整する必要がある。PDの進行と共に多種類・高用量の抗PD薬が必要となるため、副作用や相互作用のリスクが高くなるためPDの薬物療法において薬剤師の働きは重要。
●参考資料 日経DI2019.09