薬剤師ドリブン

ただ怠惰に生きたい四国在住の薬剤師が、どうしても放っておけない日々の疑問や課題を探求する様子を描いたブログです。

【稿本】排尿障害の患者に対応するために、薬剤師として知っておきたい知識

排尿障害の病態と薬物治療

排尿障害は、臨床症状をもとに①頻尿や尿意切迫感、腹圧性尿失禁などの「蓄尿症状」②尿勢低下や排尿遅延などの「排尿症状」③残尿感などの「排尿後症状」に大別される。近年はこれらを合わせて下部尿路症状(LUTS)と呼ぶようになった。

男性のLUTSの原因で多いのは前立腺肥大症と過活動膀胱(OAB)。各病態は関連しており、両者を合併している患者も多い。前立腺肥大症に対する第一選択はα1遮断薬や、5α還元酵素阻害薬、ホスホジエステラーぜ(PDE)5阻害薬とされている。PDE5阻害薬は、心血管系疾患の合併例や、硝酸薬や一酸化窒素供与薬などを投与中の患者には禁忌なので必ず合併症・併用薬の確認を行う。5α還元酵素阻害薬は即効性はないが、服用を続けているうちに徐々に前立腺容積が縮小していく。男性のOABは前立腺肥大症との関連が大きく、両者を合併していることが多い。抗コリン薬を投与すると、排尿困難や尿閉をおこすリスクがある。頻尿を訴える男性患者の場合、事前に必ず前立腺肥大症の有無や残尿を確認し、それらがあれば前立腺肥大症を治療した上で、OABの治療として抗コリン薬やβ3作動薬を投与するのが基本。

女性のLUTSで多いのはOABや腹圧性尿失禁。OABの治療は抗コリン薬とβ3作動薬のミラベグロンが第一選択薬(推奨度A)とされている。抗コリン薬は使用経験が豊富で効果が強い。尿閉の心配は少ないが、口渇や便秘の副作用がでやすい。分子量が小さく脂溶性の高い経口抗コリン薬は血液脳関門を通過しやすく、認知機能に影響があるといわれているため副作用がでにくい経皮吸収製剤やβ3作動薬が使用される。。腹圧性尿失禁については薬物療法の選択肢は少ない。β2作動薬のクレンブテロールが有効なケースもあるが、第一選択は骨盤底筋訓練である。

薬剤性排尿障害を見逃さない

薬剤性排尿障害は、膀胱、尿道前立腺に分布する自律神経系や膀胱平滑筋に薬剤が作用することで引き起こされる。特に問題となるのは、尿閉や排尿困難などの排尿障害を引き起こす薬剤。特に高齢者で注意するのが抗コリン作用を有する薬剤。前立腺肥大症に禁忌となっている薬剤については、日ごろから頭に入れておく。OTCにも注意。抗コリン作用性有害事象のリスクを示す指標として、Anticholinergic risk scale(ARS)などが用いられることがあるが、薬剤性排尿障害リスクを評価するものではない。総抗コリン負荷の評価が重要。

ドネペジルのように蓄尿障害を起こす薬剤もある。コリン作動性作用により、膀胱平滑筋の収縮、尿道括約筋の弛緩を促し、排尿を促進するといわれている。

【参考資料】日経ドラッグインフォメーション2019.03